JARI 一般財団法人 日本自動車研究所

JARI-ARV(拡張現実実験車)


JARI-ARV(拡張現実実験車)完成のお知らせ

 一般財団法人日本自動車研究所(以下JARI)は、革新的な実験車”JARI-ARV(拡張現実実験車)”を5月9日(木)に公開しました。
JARI-ARVは、拡張現実(Augmented Reality:AR)技術を導入した道路上を走行するドライビングシミュレータと言えるものです。従来の屋内型ドライビングシミュレータに比べ、運転時の違和感が非常に少なく、様々なシーンにおいて自然な運転行動を再現できるという特長を有します(概要は後述)。JARIではこのシステムを Jtown全方位視野ドライビングシミュレータ (以下、DS)と併せて、交通事故を未然に防ぐための予防安全の研究に広く活用してゆく予定です。

図1 JARI-ARVの外観


1. JARI-ARVの概要

  • JARI-ARVは、車両ボンネット上に前方を撮影するビデオカメラとその映像をリアルタイムに表示する大型ディスプレイを搭載しており、ドライバーはこのディスプレイに映し出された映像を見ながら、通常の運転と同様な感覚でテストコース上を運転することができます(図2参照)。
  • さらに、ディスプレイ上に表示される風景には、仮想の車両や歩行者を合成表示させることが可能で、実交通の場面で起こりえる様々なシーン(ドライバーの死角からの歩行者や自動車の飛び出しなど)の再現が可能となります。
  • これらの実交通の場面で起こりえるシーンのシナリオは、コンピュータ上で任意に設定することができます。

図2 JARI-ARV車室内から見た前方のディスプレイ


2. JARI-ARVとDS、Jtownとの連携について

  • 「全方位視野ドライビングシミュレータ」は、参考資料1に示すように事故の危険性が高い数多くの交通状況を自由に設定することが可能です。また、事故状況をゼロリスクで再現できるという特長も有します。但し、シミュレータは、バーチャルな道路上を運転するシステムのため、実際のドライバーの行動や車両挙動が得られないという課題があります。
  • 「Jtown」は、約16万平方メートルの敷地に、雨、霧、日照等の環境条件を再現可能な屋内施設「特異環境試験場」、通信を利用した協調型自動運転システムの実験施設 「V2X市街地」、模擬建屋や道路標識なども活用し、様々な交差点形状を再現可能な「多目的市街地」の三つの試験エリアから構成されます。(参考資料2参照)。このテストコースでは、公道上では実施できない危険場面の再現実験が行え、実際のドライバーの行動、車両挙動データを収集・分析することが可能です。但し、このような実験は、実際に歩行者が飛び出すなど、人が関わる危険場面を再現できないこと、設定できる交通状況が限定的となるという課題があります。
  • JARI-ARVは、ドライビングシミュレータのメリットである「様々な交通事故シーンを再現できること」と、Jtownのメリットである「実際の走行環境下で実験を行えること」の両方を兼ね備えたシステムです。JARI-ARVは、事故発生メカニズムの解析、安全運転教育、予防安全システムの開発支援等、予防安全に関わる研究に幅広く活用することが可能です。

図3 JARI-ARVの特長


3. JARI-ARVの活用事例

  • JARI-ARVは、下記のような活用が期待されます。
    • 事故発生メカニズムの分析
      実際の交通事故/危険場面を再現したテストコース走行実験により、ヒューマンエラーを
      中心とする事故発生要因を分析
    • 運転支援システムの開発サポート
      事故や危険状況に至る際の走行データ(運転行動や車両挙動)を分析してドライバ特性を
      把握することで、適切な運転支援方法のあり方を検討すると共に、警報提供等による衝突
      回避効果の検討に活用
    • 安全運転体験ツール
      職業運転者や高齢ドライバーが交通事故や危険シーンを擬似体験することによる安全運転
      啓発ツールとして活用

参考資料1 全方位視野ドライビングシミュレータの概要

  • JARIの全方位視野ドライビングシミュレータは、キャビンの全周にわたって仮想的な交通状況が表示され、さらにキャビン自体が±300度回転するため、方向転回等を含む様々な交通条件を再現することが可能です(付図1参照)。
  • JARI-ARVと比較して、運転時の現実感は劣るものの、条件設定(危険場面の設定、運転支援システムの設定等)の自由度が高く、対策効果や運転への影響の評価が簡便・安全にできるという特長があります。
  • このため、全方位視野ドライビングシミュレータを用いて、多くの交通条件の中からフォーカスすべき典型的な危険場面を絞り込み、そのシナリオをJARI-ARVに導入することによって実際の運転特性を確認・把握することが可能です。

付図1 全方位視野ドライビングシミュレータの概観


参考資料2 Jtown「V2X市街地」、「多目的市街地」の概要

  • JARIのJtown「V2X市街地」、「多目的市街地」は、市街地における典型的な道路構造(2車線道路、4車線道路、各種交差点、合流部、見通しの悪いカーブ、登坂路等)を模擬したテストコースです(付図2参照)。
  • このテストコースを用いることにより、公道上で実施することができない危険場面の再現実験や、ドライバーの運転行動に関するデータの収集が可能です。
  • 今回のJARI-ARVの完成により、より現実感の高い危険場面のシナリオ設定が可能となりました。

付図2 Jtownの概要


事故発生メカニズム研究での活用事例 

  • 交差点での右折事故
  • 車両対歩行者事故

※道路上の車両および歩行者は、3Dコンピュータグラフィックスです。


Close