大気質改善
自動車排出ガスに対する規制強化と大気汚染物質の排出低減に伴い、テールパイプ以外から排出される物質(例えば、燃料の蒸発ガス、ブレーキやタイヤの粉じんなど)にも注目が集まっています。また、化学分析技術の向上に伴い、これまで定量できなかった微量成分の測定が必要とされているため、JARI では、AMS(エアロゾル質量分析計)や連続ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いた微粒子の連続分析、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析計)による難揮発性物質の分析など、最新機器を用いた高感度な分析方法を開発しています。そして、これらの技術を用いて、自動車からの排出物質や大気環境を調査し、自動車による大気環境への影響を包括的に評価しています。
大気環境中の微小粒子状物質(PM2.5)には、発生源などから排出されるガスから光化学反応を経て生成する二次粒子が多く含まれています。また,オゾン(光化学オキシダント)も大気中で光化学反応により生成します.JARI では、実験室内での生成実態の調査や沿道環境でのPM2.5観測など実測に基づく調査と、詳細な排出量インベントリの構築や大気質シミュレーション手法の活用など解析に基づく調査を実施し、PM2.5やO3に対する自動車寄与度の解明や自動車以外の発生源対策を含む効果的な低減対策の検討を行っています。
光化学スモッグチャンバーとPM2.5に対応した簡易型エアロゾル分析計
(PM2.5二次粒子とオゾン(オキシダント)の生成実態調査)
大気質シミュレーション
2015年にCOPにて2030年のCO2削減目標を公表しました。運輸セクターは日本全体における約2割のCO2を排出しており、その中で自動車セクターは約9割を占めており、低減対策の実施が求められています.自動車セクターのCO2削減対策として、燃費改善や次世代車普及などの自動車単体対策や渋滞改善や自動車の有効活用などの包括的な対策があげられます。
JARIでは将来自動車技術の進化や消費者選択を考慮した長期エネルギー予測モデルや自動運転をはじめとするITS導入時のCO2排出量推計モデルの構築を進め、最適な施策の検討を行っています。
また、CO2削減対策に有効であると言われている次世代車についてはは車両の製造時および廃車時の環境負荷を考慮したライフサイクルでの評価・検討を実施しています。
ITS導入によるCO2削減効果推計のスキーム
中国、東南アジア、インドなどのアジア諸国では、急速なモータリゼーションと大都市集中に伴い、大気汚染が重要な環境問題となっています。JARIは、東南アジアにおいて、燃料性状調査や走行・排出ガス試験など、現地の協力の下、データ収集・分析を実施し、大気汚染改善のための取り組みを始めています。今後、より多くの本格的な活動を展開し、アジアの大気汚染改善に大きく貢献したいと考えています。
JARIでは、(独)国際協力機構(JICA)から委託を受け、開発途上国の自動車関連の行政官・技術者を対象とした研修を実施しています。研修は1990年にスタートし、近年では、自動車を取り巻く環境問題に対して施策策定のできる人材育成をめざしたコースを実施しています。研修では、座学のほか、JARIの設備を活用した実習・実演をたくさん取り入れ、更に、自動車メーカーや関連機関の協力を得て、現地での見学やディスカッションも行っています。これまでの研修参加者は、44カ国から216名にのぼっており、母国の課題解決に向け、それぞれの国でリーダーとして活躍しています。