調査研究
従来行っていた「ITS産業動向調査」に変わり、2022年度から、新モビリティ研究部の新たな取り組みとして発足した「モビリティ研究会」では、JARIが事務局となり、賛助会員等、JARI外のメンバーと持ち寄られたテーマについて共同で調査活動を行っています。研究会では、新モビリティ分野における社会実装に向けた技術や産業の最新動向を調査し課題を抽出し、さらに課題解決に対する提言や情報発信を行っていきます。
新モビリティに関して第一線で取り組まれている関係の官公庁や団体、企業、専門家などの協力を得て行うアンケートやインタビューを通して得られた知見をベースに研究会独自の分析を加え、今後の進むべき方向をとりまとめ、広く関係者や一般に問うことを目的としています。
研究会の調査分野は、自動運転や交通選択肢の少ない地域のくらしの足となる小型モビリティの動向やMaaSのデータ活用など移動に係わる様々な分野に加え、カーボンニュートラルを目指す自動車業界におけるSDGs/ESG対応の動向を対象としています。
調査分野の実現や普及のためには技術的な課題の解決と併せて、新たなまちづくり(リデザイン)や様々な用途に合った新しいモビリティ等の検討やそれらモビリティへの社会受容性の醸成が不可欠となります。
そのため、当研究会では業界を超えた様々な専門家との意見交換などを通じて得られた知見について、JARIホームページ上で報告書を掲載し、関係者、専門家はもとより、広く多くの方に向けて紹介します。
報告書は以下の通り
限界的な小さな集落において、その地域での継続居住を図るために地域を柔軟にマネジメントする社会システムを成立させるための要件を導きだす基礎研究に取り組んでいます。
具体的には行政や民間が運営する移動手段や物流等の基礎インフラ、医療保健福祉サービスなどの公共的なサービスの提供者や住民を含めた様々な関係者から、社会システムを維持・確保するために必要な配慮や手当などの調査を行っています。
併せて、地域の多種多様な資源を活用した継続性のある街づくりや交通政策の提案を行ってまいります。
日本では少子高齢化が進行し,今後は人口減少が顕著になることから、過疎地においては特に人手不足や無居住化などが進むと言われています。そういった社会におけるモビリティ像を模索するため、新モビリティ研究部では、地域の基礎インフラの在り方について研究し、交通事業者や自治体等との関係構築を進めながら政策提言や新たな事業の実現を目指しています。
■2021年度
(一財)医療経済研究・社会保険福祉協会から「人口減少下における中山間地域の生活維持に関する調査研究」事業を受託し、東京大学や株式会社日本総合研究所、復建調査設計株式会社等の協力を得て、人口減少が進む4地域(高知県仁淀川町、秋田県小坂町、島根県美郷町、岡山県備前市吉永地区)を選定し、生活の礎となる医療・介護サービスやモビリティを含む生活支援サービスの実情を調査しました。
その結果、人口減少地域では医療・介護や生活支援サービスの事業性悪化による撤退が進むことが考えられ、継続して居住していくためには、拠点化などを含めたまちづくりとモビリティサービスの確保が重要なファクタとなることがわかってきました。
■2022年度
2021年度の調査結果を受け、中山間地域の継続居住に向けた機能の集約化・拠点化を図るために不可欠なモビリティの確保に向けて、拠点を中心としたモビリティサービスや公共交通再編実現に向けた道筋を示すことを目標に、「小さな拠点」構想が検討されている2地域(高知県仁淀川町、兵庫県養父市)で調査を実施しました。
検討にあたっては、行政・医療関係者、交通事業者、フレイル予防活動を推進するNPOや東京大学等学識経験者の協力をいただき、地域の公共交通や自家用車の利用状況調査を実施。拠点を中心とした移動サービスについて検討するとともに、地域の公共交通であるバスの運行費用等についての考察も行いました
■2023年度
現在、2022年度に調査を実施した2地域(高知県仁淀川町、兵庫県養父市)にて、それぞれ、小さな拠点周りのデマンド型交通の実証実験の実施に向けた準備、住民によるフレイル予防活動をサポートする移動手段の確保や地域の公共交通の在り方に関する検討を進めています。
これらの活動については、順次ご報告させていただきます。
運転行動は、ドライバーによる「認知・判断・操作」のプロセスで実現されています。自動運転システムの場合は、カメラ、レーザレーダおよびミリ波レーダなどの周辺認識センサの入力情報を用いて、自動運転システムが「認知・判断・操作」を行う必要があります。
車両周辺の歩行者や自転車などの認識性能を向上させるためには、季節および時間帯等の異なる様々な走行シーンや雨や霧などの悪環境下を走行してセンサデータを収集し、シミュレーション評価を行うことが必要です。こうしたデータベースを構築することは、開発に携わる関係者にとって負担が大きいことから、関係者が共通で利活用でき、大量のデータから必要な走行シーンを瞬時に検索可能な使い勝手の良いデータベースの構築を行っています。
また、高性能な認知・判断アルゴリズムの開発には、西日による逆光、水溜りによる反射、霧などの悪環境下での周辺認識センサデータを数多く入力し、シミュレーションする必要があります。しかし、実際に収集されるセンサデータは大変少なく、様々なシーンのデータを収集することは難しいため、収集したデータを基としてコンピュータグラフィクス(CG)を活用し、バーチャルなシーン作成するなどのCGによるシミュレーションデータ生成による仮想的な評価環境の構築についても検討しています。
認識・判断データベースの研究・実証事業
すでに実用化フェーズにある運転支援システム(SAEレベル1、2)は、周辺監視の義務を含めた運転権限をドライバが常に持っています。一方、将来的に想定される自動運転システム(SAEレベル3以上)は、周辺監視の義務を含めた運転権限をシステムが持ちます(少なくともシステムがドライバへ運転権限を委譲するまで)。前者に比べて後者は、システムが備えるべき機能や性能、負うべき責任は格段に高まります。従って、緊急時(故障、性能限界、ミスユース、ドライバ不調、セキュリティ侵害など)でも、安全性を確実に担保できる安全設計技術の必要性が高まります。
車両周辺の歩行者や自転車などの認識性能を向上させるためには、季節および時間帯等の異なる様々な走行シーンや雨や霧などの悪環境下を走行してセンサデータを収集し、シミュレーション評価を行うことが必要です。こうしたデータベースを構築することは、開発に携わる関係者にとって負担が大きいことから、関係者が共通で利活用でき、大量のデータから必要な走行シーンを瞬時に検索可能な使い勝手の良いデータベースの構築を行っています。
自動運転システム(SAEレベル3、4)の早期実用化を促進するためには、「安全設計および検証評価の基本的な考え方」を共有する必要があると考えます。このような背景や目的のもと、平成26年度より経産省受託事業(安全設計技術の開発)に、産学連携のチームで取り組んでいます。具体的には、主に以下の4課題です。
ユースケースのイメージ図(例)
ユースケースの整理・体系化
ユースケースと紐づいたFOP検証環境
自動車では、GPSやキーレスエントリーなどが既に車両の外部と通信で繋がっており、それらに使われる通信もV2X(Vehicle to Everything:車両対車両、インフラなど)や、セルラー通信、WiFi / Bluetoothなど、様々なものに広がっています。特に、自動運転システムでは、通信により得られる情報を走行制御にも活用することが想定されており、情報が正確であることが重要となります。
また、自動車がインターネットなど外部と繋がるようになってくると、IT業界、例えばコンピュータ等の課題であるセキュリティを確保することが、自動車でも同様に求められるようになってきます。実際、セキュリティ関連の国際会議「BlackHat」では、自動車のハッキング事例が報告され、リコールに繋がった例もあることから、今、自動車のセキュリティが注目されています。
JARIでは、自動車セキュリティの研究として、主に評価手法の開発、評価基準の研究に取り組んでいます。IT業界でもセキュリティ対策では多層防御ということが言われていますが、自動車の場合にも同様に階層に分けて対策を考えるというのが一般的です。JARIにおいては、主に第2階層以下、つまり車両の内部におけるセキュリティ技術を対象に研究を進めています。
自動車における外部との通信
セキュリティ対策における階層構造の考え方
自動運転システムを早期に実用化・普及拡大を図るためには、実用化された場合の事故低減効果を社会に訴求していく必要があります。そのためにはコンピュータ・シミュレーションにて現実の交通環境・交通事故を再現し、自動運転システムがあった場合の事故低減効果を定量的に評価する必要があります。
交通事故を再現するシミュレーションには、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、実際の事故の発生場面をリアルに詳細に再現するミクロ的な「事故場面特化型」、もう一つは、現実の交通現象を広域に再現し、そこで発生するさまざまな事故を対象とするマクロ的な「交通環境再現型」に分類されます。
JARIでは、多様な交通参加者の交通行動・事故再現を行うことができる「交通環境再現型」のシミュレーションの開発に取り組んでいます。
現実の交通環境を再現させるためには、ドライバや歩行者などの交通参加者が、それぞれ認知・判断・操作の一連の行動を自律的に実施する主体となり、相互の行動に影響し合い、その中で偶発的に交通参加者のミスが発生した場合に事故が起きる仕組みを構築する必要があります。また、事故の大半が交通参加者のミスに起因していることが報告されており、事故低減効果の予測精度を高めるためには、事故実態が示す人間のミスの特徴を模擬できるドライバや歩行者などの行動モデルを開発することが重要かつ難しい課題です。
事故低減効果シミュレーション全体構成